「ご機嫌良う、トロイト王。」
「トロイト王、となど水臭いな。素直にガーティ、と呼んでくれて構わんのだぞ?」
「あら、形式だけはちゃんとしなくては。ねぇ、貴方?」
「…いや、ガーティでいいと思うが。」
「流石。話がわかるな、エイラス。」
「あらあら。貴方、こういう晴れの舞台くらい、ちゃんと挨拶なさって?」
「スザンナ!!」
「…?あら、アリア!!」
「…だから形式などいらんのだ。」
「そういうことだな。」
ワケが分からない方に説明しておこう。
ベルニア国は、ガリ勉生真面目のエイラス王が治めている。
妻は典型的な貴婦人のスザンナで、彼女は遠く離れたトロイト国の出身である。
一方、トロイト国では無作法ガサツなガーティ王が治めている。
妻は典型的な貴婦人のアリア。スザンナを尊敬しているらしい。
つまり、互いに正反対の王を持つ国なのだ。
何故仲がいいのかは国民の最大の疑問である。
そんな大人たちを尻目に、マリィはしずしずと進み出た。
その時間、本当に20分。
優雅な金の髪は頭頂部でまとめられ、可憐なティアラが良く映えている。
長い長い髪は先で奇麗にカールされ、ピンクのドレスと相まってボリュームのある美しさ。
それでいて、表情は凛としていて知的で、スカイブルーの瞳が見つめられた者を射抜いてしまう。
「――おお、マリィ。」
「マリー姫!!」
ガーティ王は破顔して、ずかずかとマリィに歩み寄ってきた。
だからといって。
いくら知り合いの小父様が親しみやすいからといって。
駆け寄って抱きつくマリィ姫ではない。
「ガーティ小父様、御機嫌よう。」
丁寧な一礼。ガーティはしばらく棒立ちになる。
「…恐ろしく奇麗になったな。一体どこでそんな気品を身につけてきたんだ?」
「不思議なことをおっしゃいますね、小父様。私はいつものマリィですわ。」
「そうよガーティ。」
アリアを先頭にマリィの両親もにこやかに姫を囲んだ。
「改めて紹介すべきかな?ガーティ。」
「面白いジョークだ。」
ふふっ、と笑うガーティに寂しさが垣間見えたのは気のせいだろうか。
「ところで…シュルア王子はどちらに?」
その場で、全員が、ピシリ、と、固まった、ような、気がした。
マリィの表情が、恐ろしいほどにこやかになる。
「まさか、いらしてない、となど仰らないでしょうね。」
「う」
笑顔の脅迫。
他国の王もタジタジ。
「シ、シュルアは来てはいるのよ!!」
アリアは微妙な笑顔でマリィとガーティとの間に割って入った。
「来ては、いる…?いらっしゃっているのに、何故お顔を見せてはくれないのです?」
「い、いえ!そんなことはないのよ!ただ…」
「そそそそうだ!ほら、試しに客間へ行ってみろ。確かにシュルアは居るぞ!」
「ガーティ!!…行っては駄目よ、マリー姫。シュルアは体調が優れないそうですので。」
何だか、とても苦し紛れ。
結局は、私の出番なのね。
そうして、ようやく、姫の本性が表れる。
「では、許婚のわたくしが面倒を見ましょう。」
「だめだめだめ!!!!!」
「確か、客間にいらっしゃるのでしたわね。では後ほど大広間で。」
「ああっ、マリィ姫!!」
大人の4人衆が呆然とする中、マリィはさっさと王の間から退場していった。
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