皆様、ご機嫌良う。
ところで、皆様はマリーアントワネットとおっしゃる麗しき王妃様をご存知かしら?

何故かしらね。
あんなに甘いケーキをたくさん召し上がって、
あんなにゴージャスな生活を過ごされて、
それでいて、キレイなんですもの。

わたくしなんて、甘いモノは太るから控えていますし、
ゴージャスだけど、美容に最新の注意を払ってますし、
苦労して、キレイを保たなくてはなりません。


ただ、わたくしとマリーアントワネット様には、一つだけ共通点がございますの。


それは――



     ―CASE1 婚約という名の腐れ縁―



「マリィ!!マリィ!!」
優雅な真鍮の柱。
その回廊を、一人の男が駆け抜ける。
奇麗なスーツを見事なまでのぐちゃぐちゃ加減で着こなしている。
眼鏡がずりおちそうになるのを押さえながら、必死の形相でたどり着いた先は立派な扉だった。
ばん、と派手な音。
「マリィ!!」
「わたくしはここに。」
「ああっ、マリィ!!」
するすると、優雅な動作で奥からお姫様がやってきた。
麗しの、お姫様。
「あら、お父様…せっかくのスーツが台なしですわ。」
「そんなことはどうでもいい!!お前は用意できたのか!?」
「よう、い……?」

両者の間を、沈黙だけが通る。
「何か…あるのですか?」
「何、って!」
ずいっ。
近づく父に、たじろぐ娘。
「マリィ!!お前の婚約発表だろう!」
「こ、婚や、く――」
「まだそんな格好をしてるのか!!おい、スザンナ!!」
そんな格好、とはどういう格好のことだろうか。
姫様は、質素でありながら優雅な白のドレスを着ている。
「はいはい…あら貴方。スーツが台なしよ?」
「私はいいから、マリィを――」
登場したのはどうやら姫様の母親。
しずしずとしたよき貴婦人で、母親らしく立派なドレスに身を包んでいる。
「あらあら。マリィ、早く着替えなさい?」
母は、しずしずとクローゼットに向かった。
「そうねぇ…婚約発表なんですから、女性らしくピンクがいいんじゃないかしら。…マリィ?」
「…わたくしは婚約発表など無くとも良いのです。」

またまた、何かしらの沈黙が通った。
この城には沈黙がよく通るらしい。

「そそそういう訳にはいかない!!」
「貴方落ち着いて。マリィ、もうトロイト国の王子様はご到着されてるのよ?お待たせしてはいけないわ。わかるでしょう?」
何となく、姫に両者の目線がクローズアップされた。
姫は、それこそ穏やかな素晴らしい姫君なのだけれど。

その裏の、勝気なお嬢様気質が、あふれ出していた。

(確かに、わたくしが人を待たせるなど、あってはならないわ…)

「…マリィ?」
「――わかりました。では、マリィにあと20分頂けますか?」
「20分で足りるの?」
「湯浴みを済ませたばかりですから。」
そうにっこりと笑むと、勝気なお嬢様はずいずいと両親を追い出した。
普通何時間もかける身繕いを、さっさと終わらせるために。



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