触れたい。
手をつかんで、振り向かせて。
君はきっと覚えていない、けれど。
抱きしめたい。
柔らかな、華奢な体を。
時折見せる淋しげな表情を。
けれど、それは叶わない。
―One―
いつの日か。
闇に覆われた世界を浄化する、異世界の天使が舞い降りた。
彼女は運命に溺れ、期待に侵され、力に支配され。
泣いて、いた。
自らの使命に。
混沌の世界に。
彼方の故郷に。
俺は、闇に支配された人間だ。
触れてはならない。汚れてしまう。
情けなど持たない。感情を失ったから。
知ってはならない。近づくことは許されない。
だけど。
月夜だった。
朧げに照らされた、二人の影。
そっと、彼女の顔が肩にかかる。
強がらなくていい。
従わなくていい。
慣れなくていい。
重みに堪えられないなら。
俺の前で、泣いたらいい。
そうして笑った君が、一番自然で。だから。
汚れるとわかっていて、俺は彼女を抱きしめた。
失ったはずの感情が、紅に染まる。
やがて、それは白熱の炎となり勢い良く爆ぜて。
――俺は、禁を破った。
光と闇が交わるという、禁を。
罰はすぐに与えられた。
彼女は異世界に強制帰還された。
何故?
あんなに、使命を受け入れていたというのに?
彼女が追放されたのは、俺の存在のせい?
光を失い、闇はより一層濃く。
失った穴は残酷な野性に埋められ。
ああ。俺は今、どうなっている。
誰か、教えてくれ。
ああ。身体が他の血に染まる。
誰か、出してくれ。
ああ。殺める手が止まらない。
誰か、誰か。
誰か、助けてくれ。
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